#ところで艦これ厨は滅ぼされねばならない というタグを見かけたので、他の戦略ゲー厨も滅ぼしてみようと思う。①

デデン!

togetter.com

ずいぶん前の話なので、出遅れた感満載なのだが、こういうまとめを見つけたので記しておく。

長い話が嫌いな人向けに要約すると、

艦これオタク「艦これの二次創作やってると歴史を学ぶことになるから、手軽に正しい史実を学べるんだよね~」

歴史クラスタ「そんなわけあるか。艦これの知識はあくまで軍船の知識であって断片的。史学という学問レベルに昇華するには広い知見、包括的解釈が必要」

というやりとり。

私的にはぐうの音もでないほどの正論だと思うのだが、発言者の言い方や「滅ぼす」という力強いワードもあいまって、賛否両論になったのであった。

(戦前の書物ならいざしらず、現代において小生とかやたら古めかしい文調でかかれたものでまともなものに出会ったことがないので、個人的には「思ふ」とか「ならぬ」とかを使っている文は地雷だと思っている)

タグの「ところで艦これ厨は滅ぼされねばならない」についても、大カトーが言ったことがある、というだけで使っているので、その背景や文脈をダブルミーニングにする、というようなわけでもなく、センスがないと思うし、

もしかしたら、大カトーの「関係ない話につなげて連呼しまくる」ことを愚かだと暗喩していて、発言者自身が愚かであるという自虐ネタに走っているのかと感心したがそうでもなく。

マジレスがきたら、「いやいやこれはローマの政治家の有名な言葉で・・・。滅ぼすなんてのはネタですよ。」みたいに予防線張るダセェ態度なのかな?と思ったが結局のところマジレスにはマジレスで返し。

何のためのその言葉だー!って感じだ。

 

「正しい史実」とは?

以上少し批判的に書いたが、内容に関しては説得力があるので、そこは誤解しないでいただきたい。

ここで終わらせて、「今回の件から得るべき教訓は、発言の内容だけではなく、形式にも気を配るべきだ」と総括して本題に移っていいのだが、少しだけ補足しておく。

上記の議論はなにもすべての艦これファンが体系的な歴史を知らないといっているのではなく、たとえば軍船の設計からは、「どのような設計思想で作られたものか=この軍船をどう活用しようとしたのか」という戦略思想レベルの話も見えてくるし*1、大戦前の軍船の設計に大きな影響を及ぼしたワシントン海軍軍縮条約をかじれば、その時代の国際協調主義や統帥権問題など、国際・国内情勢と絡めた議論もできるようになるだろう。あくまでここで主張されているのは、軍艦のスペックや戦歴調べただけでドヤるなよ、ということなのだ。

もっとも、御方が言う「体系的知識」を得たところで何か特別なことがあるのか、といわれるとそうでもない。上で議論されたのは「断片的知識」が「体系的知識」を殺す例だが、逆の例をお目にかけよう。

今は薄まってきたようだが、20世紀前半あたりに、日本いや世界の歴史学において、マルクス主義のブームがあった。マルクスが主張した唯物史観は、歴史解釈において多大な影響を及ぼすのだが(これは後に詳しく触れる)、それ以外にも共産主義的思想にはまる歴史学者を生み出した。彼らの頭の中では資本主義は帝国主義に不可分的に結びつき、資本主義国は好戦的で悪であるという「体系的知識」があった。戦後、朝鮮戦争が勃発した際に、彼らは「共産国北朝鮮が資本主義米国の傀儡である韓国に攻撃するはずがない、好戦的なのは資本主義国であって断じて共産国ではない」と思い込み、「朝鮮戦争は韓国が北朝鮮に侵攻して始まった」と事実とは間逆の推定をしてしまい、それを鵜呑みにして「史実」としてしまったのである。

他の資料に当たればはっきりとわかる間違いであるのに、彼らのバイアスがそれらをシャットアウトし、事実をゆがめてしまった。これこそが、「体系的知識」が「断片的知識」を殺す例である。

なにも歴史学をDISっているわけではなく(このようなことは国際関係論や政治学一般にもある)、ここでいいたいのは、「正しい史実」なんてものはないということである。「Historical events,,, are all about interpretation. (歴史的事実は、すべて解釈の問題である)」という言葉があるように、すべては体系的知識による解釈の問題であり、そこから逃れることはできないということだ。

ではどうするか。大事なのは「事実」を解釈する「体系的知識(パラダイムと言い換えてもいいと思う)」の厚みと説得力を吟味すること、さらにパラダイムに反する事例があった際に誠実にその事例に適応するようにパラダイムを変化させることである。これは難しいことである。稀代の天才、アインシュタインですら最後まで「神はサイコロを振らない」といって量子力学を否定した。しかしこれができないと、前の朝鮮戦争の例が示すように、学問は単なるイデオロギー発散の場となってしまうだろう。

 

さて、非常に前置きが長くなったが、この記事の目的は、「歴史を『断片』として切り取って消費させるやり方は艦これだけではなく他のゲームでもあるのだから、艦これ厨を滅ぼすのなら、それらのゲーム厨もまとめて滅ぼさないと不公平だろ!」というものである。というわけで、筆者が触ったことのある戦略ゲーが、どのくらい歴史を断片化しているのか、また史実から離れているのかについて分析していきたいと思う(ちなみに筆者はそれらのゲームの大ファンであるので、アンチ活動ではないことだけご留意いただきたい)。

 

思ったより長くなったので、後編につづく。

*1:特に、このサイトの『魚雷は大人になってから』は軍艦のスペックと海軍の戦略を絡めて書いてある。興味のあるからはぜひ。